1792年世界 18世紀

すずかけ協定(ボタンウッド協定)の締結——ニューヨークの24名のブローカーが交わした誓約書を、ニューヨーク証券取引所は自ら「公式な創立」と位置づける

日付と暦

原典表記
1792年5月17日(グレゴリオ暦)
換算
1792-05-17(グレゴリオ暦)
掲載日
5月17日のページ

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概要

1792年5月17日、ニューヨークで証券の売買を仲介していた24名のブローカーが、短い誓約書に署名したとNYSE・HISTORY等は記す[SRC-01629][SRC-01630]。この文書は、証券の売買手数料を顧客が誰であるかにかかわらず正貨換算で0.25%以上とすること、互いの取引において優先を与えることだけを定めた、わずか数十語の合意だった[SRC-02198]。この誓約書は、後に署名者たちの伝統的な会合場所だったすずかけ(プラタナス属。英名buttonwood)の木にちなみ、英語で「Buttonwood Agreement」と呼ばれるようになった[SRC-01632]。本サイトでは、日本語で「すずかけ協定」「ボタンウッド協定」と表記する。ニューヨーク証券取引所(NYSE)は現在、この署名を自らの「official founding(公式な創立)」と位置づけている[SRC-01629]。一方、「すずかけの木の下で署名が行われた」という広く知られた語りそのものの史実性については、学術論文が疑義を示している(詳細は異説・論争を参照)[SRC-02199]。

本文

誓約書の全文は、「We the Subscribers, Brokers for the Purchase and Sale of Public Stock, do hereby solemnly promise and pledge ourselves to each other, that we will not buy or sell from this day for any person whatsoever, any kind of Public Stock, at a less rate than one quarter per Cent Commission on the Specie value and that we will give a preference to each other in our Negotiations. In Testimony whereof we have set our hands this 17th day of May at New York. 1792.」というものである[SRC-02198]。日本語に直せば、「われわれ署名者、すなわち公共証券の売買を仲介するブローカーは、ここに厳粛に互いへ誓い、かつ誓約する。本日以降、いかなる人物のためにも、いかなる種類の公共証券も、正貨換算で4分の1パーセントの手数料を下回る率では売買しないこと、また互いの取引において優先を与えることを。その証として、ここニューヨークにて、1792年5月17日、各自の署名をもってこれを証する」という趣旨である(本サイトによる要約)。

この誓約書は、特定の組織名を名乗ったり、会員資格・議事規則・罰則といった規約を定めたりするものではなく、手数料率の下限と相互優先という2点だけを取り決めた、ごく短い合意だった[SRC-02198][SRC-01632]。SEC Historical Societyが公開する、ニューヨーク証券取引所(NYSE)アーカイブズ所蔵の原本画像では、1頁目・2頁目にわたり計24件の署名を確認できる[SRC-02198]。このうち2頁目の2件には「1792年11月13日」という日付が個別に添えられている[SRC-02198]。この2件についてWikipediaは「1794年11月13日」と記しており、原本の判読と出典間で年の記載が一致しない[SRC-01632]。

NYSE公式サイト・Wikipedia・HISTORY等は、この誓約書に24名のブローカーが署名したと記す[SRC-01629][SRC-01630][SRC-01632]。NYSEは現在、この1792年5月17日の署名を自らの「official founding(公式な創立)」と位置づけており[SRC-01629]、Wikipediaも「ニューヨーク証券取引所は、1792年5月17日のこの協定の署名を自らの創立として祝う」と記す[SRC-01632]。一方、この誓約書自体は組織を設立する文書ではなく、25年後の1817年3月8日、ニューヨークのブローカーたちは「New York Stock and Exchange Board」という名称と、会長・書記の選出・会員の投票制・手数料規定・罰則等を備えた規約を採択した(この1817年の出来事は本記事の主題ではなく、別記事で扱う)[SRC-01628][SRC-01629][SRC-01631]。

歴史的背景

NYU Stern School of BusinessのRichard Sylla名誉教授によれば、1791年から1792年にかけての証券市場の混乱(公債価格が数週間で最大30%下落した)を受けて、ニューヨーク州当局は路上での取引や、証券を実際に保有しない者による投機的な取引慣行を取り締まった[SRC-01630]。この取り締まりを受けてブローカーたちは、私的な団体(クラブ)を結成する対応をとった、とHISTORYは記す[SRC-01630]。学術論文は、1792年4月10日にニューヨーク州議会で可決された、公開競売(public auctions)を規制する法律に言及しており、この法律は証券の公開競売での売買を全面的に禁止する当初案を修正したものだったと記す[SRC-02199]。

Wikipediaによれば、1792年3月、ニューヨークの有力な商人24名がコリーズ・ホテル(Corre's Hotel)に秘密裏に集まり、証券業務に秩序をもたらす方法を協議したとされる[SRC-01632]。この集まりの詳細について、本記事が確認した出典の範囲ではWikipedia以外に独立の裏付けを確認できなかったため、単独の出典に基づく記述として扱う。

タイムライン

日付(グレゴリオ暦) 出来事 出典
1791年〜1792年4月 証券市場の混乱(公債価格の急落)と、ニューヨーク州による取引規制の法制化 [SRC-01630][SRC-02199]
1792年3月 (Wikipediaによれば)24名の商人がコリーズ・ホテルに秘密裏に集まり協議したとされる [SRC-01632]
1792年5月17日 ニューヨークでブローカーたちが誓約書(後の「すずかけ協定」「ボタンウッド協定」)に署名したとNYSE等は記す(本記事の主題) [SRC-01629][SRC-01630][SRC-01632]
1792年11月13日 誓約書原本の署名欄に、この日付を付した署名が2件ある(Wikipediaは1794年と記す) [SRC-02198][SRC-01632]
1817年3月8日 ニューヨークのブローカーたちが規約を可決し「New York Stock and Exchange Board」を発足(別記事の主題) [SRC-01628][SRC-01629][SRC-01631]
1863年 組織の名称が「New York Stock Exchange」に短縮されたとされる(月日は本記事が確認した出典の範囲では特定できない) [SRC-01631]
異説・論争定説のない論点があります

論点の一つは、「すずかけの木の下で署名が行われたか」である。HISTORYは、1792年5月17日の署名がウォール街のすずかけの木の下で行われたと伝える[SRC-01630]。MoneyWeekも、ニューヨーク証券取引所の始まりは、1792年5月、ウォール街68番地の外にあったすずかけの木の下だったと記す[SRC-01633]。Wikipediaは、この署名が1792年5月17日、ウォール街68番地の外で行われたと記し、伝説によれば署名はすずかけの木の下で行われたとされる、とも記す[SRC-01632]。これに対し、学術論文(Eisenstadt, 1994。Prospects誌)は、この通俗的な語りを「largely legendary(おおむね伝説的である)」と評価し、「誓約書が取引所を設立した」という主張には「without any foundation(根拠がない)」とまで評価する[SRC-02199]。同論文は、1791〜92年の重要な会合がいずれも屋内で行われたことを論拠に挙げる[SRC-02199]。また、1792年から2年後の1794年の旅行記も当時の証券取引の場を屋内の建物(Tontine tavern and coffeehouse)として描写しており、同論文はこれを1793年以降も取引が何らかの形で続いていたことの一例として示す[SRC-02199]。さらにWikipedia自身も、この協定の名称はすずかけの木にちなんで名付けられたのであり、そこで署名されたからではない、と記しており、通俗的な語りに対する留保を示している[SRC-01632]。本記事はこの相違を独自に解消せず、両方の見方を出典に基づいて併記する。

論点 説 根拠・出典 学界での位置づけ
すずかけの木の下で署名が行われたか 署名はウォール街68番地のすずかけの木の下で行われた(Wikipediaの伝説の枠内では、同じ場所で最初期の取引が行われたとされる) [SRC-01630][SRC-01632][SRC-01633] HISTORY・Wikipedia・MoneyWeek等が伝える通俗的な語り
すずかけの木の下で署名が行われたか 木の下で署名が行われたとする伝承はおおむね伝説的だとされ、当時の重要な会合・取引は主に屋内(コーヒーハウス等)で行われていた [SRC-02199][SRC-01632] 学術論文(Eisenstadt, 1994)の見解。Wikipedia自身も伝承である旨を明記

もう一つの論点は、この1792年の誓約と、1817年3月8日の「New York Stock & Exchange Board」規約採択(別記事の主題)のどちらを「ニューヨーク証券取引所の創立」とみなすかである。NYSE自身は1792年の署名を「official founding」としつつ、1817年の組織については「forerunner(前身)」という別の語を用いている[SRC-01629]。Gale社の企業史参考図書の年表は、1792年を「Formal founding(正式な創立)」、1817年を「名称の採用」として明確に区別する[SRC-01631]。この論点の詳細な出典突合は、1817年の出来事を主題とする別記事に記す。

関連する出来事

関連人物

本記事の主題は、誓約書原本に記された計24件の署名そのものであり(このうち2件は別日付の署名である)、個人としての経歴が出典から十分に同定できる人物は見当たらなかった。誓約書原本の画像には複数の署名が確認できるが、18世紀の筆記体の判読には不確実性が伴うため、本サイトでは個人名を独自に転記・列挙していない[SRC-02198]。学術研究(Eisenstadt, 1994)は、1792年のこの誓約書と1817年の規約の双方に署名した4名を、バーナード・ハート、レナード・ブリーカー、A・H・ローレンス、サミュエル・ビービーと具体的に特定している[SRC-02199]。

歴史的意義

この誓約書そのものは、組織の名称も会員規則も持たない、手数料率と相互優先だけを定めた簡潔な合意だった[SRC-02198]。しかしNYSEは現在、この1792年5月17日の署名を自らの「official founding」と位置づけており[SRC-01629]、25年後の1817年の規約採択を経て、ニューヨークの証券取引は投票による会員管理・手数料規定・罰則規定を備えた組織へと発展していった[SRC-01628][SRC-01629]。本記事が確認した出典の範囲では、この1792年の誓約と1817年の規約化のどちらを重視するかによって、「ニューヨーク証券取引所の創立」の語られ方が変わってくる(異説・論争を参照)。

現代の視点

「すずかけの木の下で24名が署名した」という場面は、挿絵や、1922年にNYSEが製作させたメダルといった図像を通じて普及していったと、学術論文は指摘する[SRC-02199]。起源の物語がどのように形成され、広まっていくかという観点から見れば、この誓約書そのものの簡素さと、その後に積み重ねられた「創立」の語りとの隔たりは、組織が自らの歴史をどう語るかという一般的な問いの一例でもある(本サイトの整理)。

出典一覧

  1. [SRC-02198] Buttonwood Agreement – Original Articles of Agreement founding the New York Stock and Exchange Board(1792年原本の写真画像)/SEC Historical Society(Virtual Museum and Archive of the History of Financial Regulation)。原本はNYSE Euronext(ニューヨーク証券取引所アーカイブズ)の所蔵・著作権表示付きで提供。(ランクS)
  2. [SRC-02199] How the Buttonwood Tree Grew: The Making of a New York Stock Exchange Legend/Cambridge University Press(学術誌 Prospects, Vol. 19, 1994, pp. 75-98 所収)(ランクA)
  3. [SRC-01628] Constitution of the New York Stock & Exchange Board, 1817(原資料の翻刻)/SEC Historical Society(Virtual Museum and Archive of the History of Financial Regulation)(ランクS)
  4. [SRC-01629] The History of NYSE/New York Stock Exchange(Intercontinental Exchange, Inc.)(ランクB)
  5. [SRC-01630] The Surprising Origins of the New York Stock Exchange/HISTORY(A&E Television Networks)(ランクB)
  6. [SRC-01631] New York Stock Exchange, Inc.(International Directory of Company Histories 所収)/Encyclopedia.com(原著: International Directory of Company Histories, St. James Press/Gale)(ランクB)(複数の資料を収載)
  7. [SRC-01632] Buttonwood Agreement/Wikipedia(英語版)(ランクC)
  8. [SRC-01633] 8 March 1817: the New York Stock Exchange is formed/MoneyWeek(ランクC)

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訂正履歴

版日付事実主張への変更
12026-10-07あり
22026-10-07あり
32026-10-07あり
42026-10-07なし

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