1926年世界 20世紀

ゴダード、世界初とされる液体燃料ロケットの打上げに成功

日付と暦

原典表記
1926年3月16日(グレゴリオ暦)
換算
1926-03-16(グレゴリオ暦)
掲載日
3月16日のページ

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概要

1926年3月16日、アメリカの物理学者ロバート・H・ゴダードは、マサチューセッツ州オーバーンの、叔母エフィーの農場と呼ばれるワード農場で、液体酸素とガソリンを燃料とするロケットの打上げに成功した[SRC-01692][SRC-01695]。ロケットは高度41フィート(約12.5メートル)に達し、2.5秒間飛行したのち、発射台から184フィート(約56メートル)離れたキャベツ畑に着地した[SRC-01692][SRC-01694][SRC-01697][SRC-01698]。NASA・国立公園局・HISTORY・クラーク大学アーカイブは、この打上げを世界初の液体燃料ロケットの打上げと位置づける[SRC-01693][SRC-01694][SRC-01696][SRC-01697]。打上げには助手ヘンリー・サックスと妻エスターが立ち会い[SRC-01695][SRC-01696]、ゴダード自身が事象の翌日に記した日記には、上昇するロケットの様子が詳しく描写されている[SRC-01695]。当時この成功はほとんど公表されなかったが[SRC-01698]、ゴダードは後年「アメリカ・ロケット工学の父」として顕彰され[SRC-01693]、1959年にはNASAが彼の名を冠したゴダード宇宙飛行センターを命名した[SRC-01693][SRC-01698]。

本文

ゴダードは1908年にウースター工科大学で物理学の学士号を、1911年にクラーク大学で物理学の博士号を取得したとNASAは記す[SRC-01693]。ゴダードは同大学の教授を務めたとHISTORY・Mass Momentsは記す[SRC-01697][SRC-01698]。大学院生だった1909年には液体燃料をロケットに用いる実現可能性について最初の論文を書き、1914年には多段式ロケットや固体・液体燃料ロケットに関する特許を取得したとNASAは記す[SRC-01693]。国立公園局は、1914年の特許について、液体燃料をチャンバーに導入する燃焼室ノズルの設計と、高高度飛行用の多段式ロケットの設計の2件だったと記す[SRC-01694]。1917年、ゴダードはスミソニアン協会から当時としては破格の5,000ドル(5年間)の助成を受けたとNASAは記す[SRC-01693]。1919年には研究成果をまとめた論文「極限高度に達する方法(A Method of Reaching Extreme Altitudes)」がスミソニアン協会により刊行されたとNASA・HISTORYは記す(Mass Momentsは同論文の公表を1920年の出来事として位置づけており、刊行年の枠組みが出典間で異なる)[SRC-01693][SRC-01697][SRC-01698]。

この論文の末尾でゴダードが、十分に強力な燃料を備えた十分に大きなロケットを建造すれば月に到達できるかもしれないと示唆したとMass Momentsは記す[SRC-01698]。HISTORYは、この論文が無人ロケットを月へ打ち上げる将来構想を提案するものだったとし、新聞各紙はこの「月ロケット」構想を取り上げ、多くはゴダードの着想を嘲笑したと記す[SRC-01697]。1920年1月13日、ニューヨーク・タイムズは匿名の社説で、ロケットは推力を得るために反動する空気を必要とするため真空中の宇宙空間では機能しないという誤った指摘のもと、ゴダード博士を酷評したとNASAは記す(日付と匿名性を明記するのはNASAのみで、HISTORYは1920年1月と月まで、Mass Momentsは1920年と年のみを示すにとどまり、いずれも匿名性には触れずに同旨の酷評を記す)[SRC-01693]。HISTORYはこの社説の表現を"seems to lack the knowledge ladled out daily in high schools"と引用し[SRC-01697]、Mass Momentsは"the knowledge ladled out daily in our high schools"と引用する[SRC-01698](本サイトはニューヨーク・タイムズの原文を直接確認しておらず、いずれもこれら出典による伝聞であり、両者の逐語の細部の違いがどちらの転記によるものかは判定できない)。Mass Momentsは、この酷評ののちゴダードは自身の研究成果を公に語ることは少なくなったが、研究自体は放棄しなかったと記す[SRC-01698]。

ゴダードは1921年9月から液体燃料ロケットエンジンの実験を開始し、ガソリンを燃料、液体酸素を酸化剤として用いたとNASAは記す[SRC-01693]。国立公園局は、1923年11月1日にポンプで燃料を供給する方式のロケットエンジンの静的燃焼試験を行い、1925年12月までにこのエンジンを試験台から独立して作動させる段階に達したと記す[SRC-01694]。クラーク大学アーカイブは、1925年12月6日の静的試験の成功により液体燃料ロケットとして初めて自重を持ち上げる出力を得たが、この時点の機体ではそのままでは打上げに至らないとゴダードが判断し、ポンプとエンジンを廃して圧力給送方式へ転換する決断を下したと記す[SRC-01696]。

1926年3月16日、ゴダードは組み立てたロケットをマサチューセッツ州オーバーンの叔母エフィーの農場に運び込んだ[SRC-01693][SRC-01695]。ゴダード自身が翌3月17日付の日記に記したところによれば、その日は晴れて比較的静穏だった。発射レバーを引いてもロケットはすぐには上昇せず、炎が噴き出して安定した轟音が続いたのち、数秒後にゆっくりと上昇してフレームを抜け、そこから急行列車のような速度で左へ弧を描き、氷雪に激突した[SRC-01695]。ゴダードは、煙がほとんど出なかったこと、轟音が思いのほか小さかったこと、炎が小さかったことを意外な点として記録している[SRC-01695]。助手ヘンリー・サックスは長い棒に取り付けたブロートーチで点火装置に着火し、妻エスターは打上げの前後を映画用カメラで記録した(発射までの遅延とフィルムの長さの制約により、上昇の瞬間そのものは撮影できなかった)[SRC-01696]。日記によれば、エスターはロケットが上昇する様子について「妖精か優美な踊り子のように見えた」と述べたという[SRC-01695]。

NASA・国立公園局・HISTORY・Mass Momentsは、ロケットが高度41フィート(約12.5メートル)に達し、2.5秒間飛行したのち、発射台から184フィート(約56メートル)離れた地点に着地したと一致して記す[SRC-01692][SRC-01694][SRC-01697][SRC-01698]。クラーク大学アーカイブは、これに加えて着地までの飛行経路の総距離を220フィートと記し、上昇速度を平均時速約60マイルと記す(HISTORY・Mass Momentsも独立に時速約60マイルという数値を記すが、両者は「平均」とは記さない。NASA・国立公園局の記事には速度の数値は現れない)[SRC-01696][SRC-01697][SRC-01698]。HISTORY・国立公園局・Mass Momentsは、ロケット本体を10フィートの細い(パイプ状・円筒状の)機体と記す[SRC-01694][SRC-01697][SRC-01698]。NASAは、このロケットが後に「ネル(Nell)」と呼ばれるようになったと記す[SRC-01693]。一方Mass Momentsは、打上げ当日ゴダードが既に「ネル」と名付けていたロケットを農場へ運んだと記しており、命名の時期について両出典の記述は逆になっている[SRC-01698]。打上げ翌日(3月17日付)の日記にはこの名自体が現れない[SRC-01695]。

歴史的背景

ロケットは13世紀初頭の中国で軍事用途として開発され、19世紀には英国で発展したとHISTORYは記す[SRC-01697]。1903年、ロシアの無名の発明家コンスタンチン・ツィオルコフスキーが宇宙空間でのロケットエンジン利用の理論的課題に関する論文を発表したが、実際に近代的な液体燃料ロケットの建造に着手したのは1920年代のゴダードが最初だったとHISTORYは記す[SRC-01697]。ゴダードは1898年に読んだH・G・ウェルズの『宇宙戦争』をきっかけに宇宙旅行という着想に魅了され、1907年、ウースター工科大学の学生時代に黒色火薬ロケットの製作を始めたとHISTORYは記す[SRC-01697]。Mass Momentsは、ゴダードが16歳のころ裏庭でサクランボの木の剪定を任された際、自身の日記に「火星まで到達する可能性さえ秘めた装置を作れたらどんなに素晴らしいだろう」と夢想したと記していたと伝え、ゴダードはその日(10月19日)を生涯「記念日」として大切にしたと記す[SRC-01698]。

タイムライン

日付(暦種別を明記) 出来事 出典
1920-01-13(グレゴリオ暦・日付と匿名性の記載はNASAのみ) ニューヨーク・タイムズが社説でゴダードの理論を酷評した(本サイトはNASA・HISTORY・Mass Momentsによる伝聞として記載) [SRC-01693][SRC-01697][SRC-01698]
1921年9月(グレゴリオ暦) ゴダードが液体燃料ロケットエンジンの実験を開始した [SRC-01693]
1925年12月(グレゴリオ暦) 静的試験によりエンジンが試験台から独立して作動する段階に達した(クラーク大学アーカイブは12月6日と記す) [SRC-01694][SRC-01696]
1926-03-16(グレゴリオ暦・本記事の主題) ゴダードが液体酸素・ガソリン燃料のロケットの打上げに成功した [SRC-01692]〜[SRC-01698]
1929-07-17(グレゴリオ暦) ゴダードがオーバーンでの最後の打上げを行った(気圧計・温度計・カメラ搭載。本記事の主題の射程外) [SRC-01694]
1945-08-10(グレゴリオ暦) ゴダードが死去した [SRC-01693]
1959-05-01(グレゴリオ暦・日単位の日付はNASAのみ) NASAがゴダード宇宙飛行センターを命名した [SRC-01693][SRC-01698]
1969-07-17(グレゴリオ暦・日単位の日付はNASAのみ) ニューヨーク・タイムズが1920年社説の誤りを認める訂正記事を掲載した [SRC-01693][SRC-01697][SRC-01698]
異説・論争定説のない論点があります

複数の説というより出典間の記述の相違として、以下に確認した点を示す(本文中でper-sourceに開示した相違を含む。調査範囲: 上記7出典)。

論点 説 根拠・出典 学界での位置づけ
打上げ地の呼称 「叔母エフィーの農場」と呼ぶ NASA・クラーク大学アーカイブ・HISTORY・Mass Moments[SRC-01692][SRC-01695][SRC-01696][SRC-01697][SRC-01698] クラーク大学アーカイブは、エフィーが「ゴダードの遠縁の親戚」であり、同農場が「ワード農場」であるとして両者を結び付けて説明する[SRC-01696]。対立する史実解釈ではなく、同一の場所についての異なる呼び方と整理できる
打上げ地の呼称 「アサ・ワード農場」と呼ぶ 国立公園局[SRC-01694] 同上
ニューヨーク・タイムズ1920年社説の逐語表現 "seems to lack the knowledge ladled out daily in high schools" HISTORY[SRC-01697] 本サイトはニューヨーク・タイムズの原文そのものを直接確認しておらず、いずれの転記が原文に忠実かを判定できない。両者が重なる範囲("the knowledge ladled out daily ... high schools")に限れば違いは「our」の有無のみであり、HISTORY版はこれに「seems to lack」を加えて引用する
ニューヨーク・タイムズ1920年社説の逐語表現 "the knowledge ladled out daily in our high schools" Mass Moments[SRC-01698] 同上
ロケットの愛称「ネル」の命名時期 後年になってから「ネル」と呼ばれるようになったとする説 NASA[SRC-01693] 打上げ翌日の一次記録(ゴダード自身の1926年3月17日付日記)にはこの名が現れない
ロケットの愛称「ネル」の命名時期 打上げ時点で既に「ネル」と命名されていたとする説 Mass Moments[SRC-01698] 日記(SRC-01695)に名が現れないことは、日記が命名の記録を目的とした文書ではない以上、この説の決定的な反証にはならない。本サイトはどちらが史実として正しいかを判定せず両論を併記する

関連する出来事

NASAは、この打上げをライト兄弟によるキティホークでの初飛行になぞらえ、地味な成果ではあったが新時代を切り開いたものと位置づける[SRC-01693](ライト兄弟の初飛行自体は本記事の対象外である)。国立公園局は、1943年にドイツのV2ミサイルが登場して初めて、ゴダードの研究の重要性がアメリカの科学者に広く認識されるようになったと記す[SRC-01694]。1969年7月のアポロ11号打上げ・月面着陸は、後述するニューヨーク・タイムズによる訂正記事掲載の契機となった[SRC-01693][SRC-01697][SRC-01698]。

関連人物

歴史的意義

NASAは、ゴダードが生涯を通じて設計を改良し続け、ロケットを操舵する機構、ロケット燃料用のポンプ、より優れた制御のために向きを変えられるエンジンなど、宇宙飛行のための技術を数多く生み出したと記す[SRC-01692]。国立公園局は、1929年7月17日のオーバーンでの最後の打上げでは気圧計・温度計・パラシュート開放と連動するカメラを搭載し、これも史上初の快挙だったと記す[SRC-01694]。この打上げの轟音は町中に響き渡り、飛行機が炎上したと誤解した住民が救急車を呼ぶ騒ぎになったが、この一件が飛行家チャールズ・A・リンドバーグの注意を引き、グッゲンハイム財団からゴダードへの多額の資金提供につながったと国立公園局は記す[SRC-01694]。国立公園局は、これとは別にスミソニアン協会からの追加の助成によりゴダードがニューメキシコ州ロズウェルに研究拠点を移したと記し、同地では1930年12月30日に高度2,000フィート・時速500マイルに達するロケットを打ち上げ、その後はジャイロスコープを搭載した初のロケット(高度4,800フィート・水平距離13,000フィート)も打ち上げたが、ゴダードの研究の重要性が広く認識されるようになったのは1943年のV2ミサイル登場後だったと記す[SRC-01694]。一方HISTORYは、リンドバーグが取り持ったグッゲンハイム基金からの助成金によってゴダードがロズウェルに試験場を設けたと記しており、移転の原資について両出典の記述は異なる[SRC-01697]。

1945年8月10日、ゴダードは自身のロケットが宇宙に到達する夢の実現を見ることなく世を去った[SRC-01693]。NASAは、サターンVロケットなど多くのアメリカのロケットを開発したヴェルナー・フォン・ブラウンが、1963年、「彼のロケットは現在の水準からすれば粗末だったかもしれないが、道を切り開き、今日の最も先進的なロケットや宇宙機に使われている多くの特徴を組み込んでいた」と述べてゴダードの功績を振り返ったと記す[SRC-01693]。1959年5月1日、発足したばかりのNASAはゴダードを顕彰してメリーランド州にゴダード宇宙飛行センターを命名したとNASA・Mass Momentsは記す[SRC-01693][SRC-01698]。

1969年7月17日、アポロ11号打上げの翌日、ニューヨーク・タイムズは「A Correction(訂正)」と題する記事を掲載し、1920年の社説を要約したうえで、「その後の調査と実験によって17世紀のアイザック・ニュートンの知見が確認され、ロケットが大気中と同様に真空中でも機能することは今や確定した。ニューヨーク・タイムズはこの誤りを遺憾に思う」と結んだとNASAは記す[SRC-01693]。Mass Momentsも、1969年、アポロ11号が月へ向かっていた際にニューヨーク・タイムズが1920年の記事を見直し、「さらなる調査と実験」によってゴダードの物理学的知見を貶めたことが誤りだったと認め、「ニューヨーク・タイムズはこの誤りを遺憾に思う」と結んだと記す[SRC-01698]。HISTORYはこの訂正の時期について正確な日付を示さず、「最初のアポロ月面着陸ミッションの3日前」とのみ記す[SRC-01697](NASAは訂正記事の掲載をアポロ11号打上げの翌日と記し、HISTORYは月面着陸の3日前と記すが、両者は同じ日を指している可能性があり、他出典と矛盾するとは限らない)。本サイトはニューヨーク・タイムズの原文そのものを直接確認しておらず、上記はいずれもNASA・HISTORY・Mass Momentsによる伝聞としてのみ記す。

現代の視点

NASAは、ライト兄弟がキティホークで行った最初の短い飛行になぞらえ、この2.5秒・41フィートの飛行がその後の新時代を切り開いたと位置づける[SRC-01693]。2026年3月16日、この打上げからちょうど100年を迎えたことを受け、NASAはこの出来事を「現代ロケット工学における画期的な瞬間」として改めて紹介する記事を公開し、クラーク大学もこの打上げ100周年を記念したデジタル展示サイトを公開していると自らのアーカイブページに記している[SRC-01692][SRC-01696]。

出典一覧

  1. [SRC-01692] Celebrating 100 Years Since Goddard's Breakthrough Moment in Modern Rocketry/NASA(ランクA)
  2. [SRC-01693] 95 Years Ago: Goddard's First Liquid-Fueled Rocket/NASA(ジョンソン宇宙センター)(ランクA)
  3. [SRC-01694] Goddard Rocket Launching Site/National Park Service(米国内務省国立公園局)(ランクA)
  4. [SRC-01695] Robert Goddard's diary entry, March 17, 1926/Clark University(Archives & Special Collections/The Robert & Esther Goddard Collection)(ランクS)
  5. [SRC-01696] March 16, 1926: The First Liquid-Propellant Rocket Launch(コレクション概要ページ)/Clark University(Archives & Special Collections/The Robert & Esther Goddard Collection)(ランクA)
  6. [SRC-01697] First liquid-fueled rocket takes flight/HISTORY(A&E Television Networks)(ランクB)
  7. [SRC-01698] Robert Goddard Launches Space Age/Mass Moments(Mass Humanitiesが運営)(ランクB)(複数の資料を収載)

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訂正履歴

版日付事実主張への変更
12026-09-27—
22026-09-27あり
32026-09-27あり
42026-09-27あり

訂正の方針は訂正ポリシーに記載しています。各版が事実主張に関わる変更を伴ったかは上表のとおりで、再fact-checkの実施状況は検証記録でご確認いただけます。