2019年世界 21世紀

2019年4月10日、国際研究チームがブラックホールの撮影画像を公開した——プロジェクトディレクターは「私たちは、ついにブラックホールの姿を初めてとらえました」と語った

日付と暦

原典表記
2019年4月10日(グレゴリオ暦)
換算
2019-04-10(グレゴリオ暦)
掲載日
4月10日のページ

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概要

2019年4月10日、国際研究プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ」(EHT)は、世界6か所で同時に行われた記者会見で、おとめ座銀河団の楕円銀河M87の中心にある超大質量ブラックホールの画像を公表した[SRC-01892]。撮影されたのはブラックホールそのものではなく、周囲の物質が放つ光がブラックホールの強い重力で曲げられて生じる、明るいリング状構造とその中心にある暗い領域である。このうち中心の暗い領域が「シャドウ」と呼ばれる[SRC-01892][SRC-01893]。この画像のもとになった観測は、発表のおよそ2年前、2017年4月に世界8か所の電波望遠鏡を結合して行われていた[SRC-01892][SRC-01893]。EHTプロジェクトディレクターのシェパード・ドールマンは「私たちは、ついにブラックホールの姿を初めてとらえました」と述べた[SRC-01892]。研究成果は、米国の学術誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』特集号に同日付で6本の論文として掲載された[SRC-01892][SRC-01893][SRC-01894][SRC-01895]。

本文

EHTは、ハワイ・メキシコの火山地帯、米国アリゾナ州やスペイン・シエラネバダ山脈の山々、チリのアタカマ砂漠、そして南極に設置された8基の電波望遠鏡を、超長基線電波干渉法(VLBI)と呼ばれる手法で結合し、地球サイズの仮想的な望遠鏡を作り上げた[SRC-01892][SRC-01893]。2017年4月、この観測網は波長1.3mmの電波でM87の中心を観測し、解像度20マイクロ秒角を達成した[SRC-01892][SRC-01893]。各望遠鏡が生成したデータは1日あたり約350テラバイトに及び、ヘリウムガス充填型のハードディスクに蓄積されたのち、ドイツのマックスプランク電波天文学研究所と米国のMITヘイスタック観測所にある専用スーパーコンピュータに運ばれて処理された[SRC-01892][SRC-01893]。

複数の較正・画像化手法を用いて解析した結果、明るいリングの中に暗い領域が浮かび上がった。これがブラックホールシャドウである[SRC-01892][SRC-01893]。東アジア天文台長のポール・ホー氏は、シミュレーション結果とこの画像を比較したとし、「観測で得られた画像は、理論的予測と驚くほどよく一致していました」と述べている[SRC-01892]。EHTコラボレーションの査読論文(Paper I)は、このリング状構造の見かけの直径を42±3マイクロ秒角と測定し、4回の異なる観測日を通じてこの直径・幅が安定していたと報告している[SRC-01894]。同じ2017年の観測データに幾何学的モデルフィッティングという異なる手法を適用した別の解析(Paper VI)も、同じ直径42±3マイクロ秒角を導き、質量として(6.5±0.2〔統計誤差〕±0.7〔系統誤差〕)×10^9太陽質量という値を得た。これはPaper Iが示した(6.5±0.7)×10^9太陽質量という質量と一致する[SRC-01894][SRC-01895]。Paper Iは、観測された画像が一般相対性理論の予言する「カー・ブラックホール」のシャドウについての理論的予測と整合すると報告している[SRC-01894]。

2019年4月10日、EHTコラボレーションは世界6か所で同時に記者会見を開き、この画像を公表した[SRC-01892]。プロジェクトには13のパートナー機関と200人以上の研究者が参加した[SRC-01892][SRC-01893]。主要な資金は、米国国立科学財団、欧州連合の欧州研究会議(欧州研究会議からはBlackHoleCamプロジェクトへの1400万ユーロの助成を含む)、東アジア地域の資金配分機関から提供された[SRC-01893]。

歴史的背景

アインシュタインの一般相対性理論は、ブラックホールが周囲の輝くガスとともにあれば、その重力による光の曲げと捕獲によって影のような暗い領域(シャドウ)を作り出すはずだと予言していたが、EHTの観測が行われるまでこれが直接見られたことはなかった[SRC-01892][SRC-01893]。2019年は、この一般相対性理論が1919年の皆既日食観測によって初めて実証されてから100年の節目の年にあたり、EHTはこの理論的予言に対する新たな検証を提供するものと位置づけられた[SRC-01892][SRC-01893]。EHTの構築と今回の観測成果は、数十年にわたる観測的・技術的・理論的な取り組みの積み重ねの上に成立したものであり、既存の8つの電波望遠鏡をアップグレードし相互に結合するという技術的な挑戦を伴った[SRC-01892][SRC-01893]。

タイムライン

日付(暦種別を明記) 出来事 出典
2017年4月(グレゴリオ暦) EHTが世界8基の電波望遠鏡を結合し、波長1.3mmの電波でM87銀河中心を観測する [SRC-01892][SRC-01893]
2019年4月10日(グレゴリオ暦) 世界6か所で同時記者会見。M87銀河中心の超大質量ブラックホールの画像を初公開する [SRC-01892]
2019年4月10日(グレゴリオ暦) 研究成果が『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』特集号に6本の論文として掲載される [SRC-01892][SRC-01893][SRC-01894][SRC-01895]
2022年5月12日(グレゴリオ暦) EHTが同じ観測ネットワークによる2017年の観測データを用いて、天の川銀河中心の超大質量ブラックホール「いて座A*」の画像を追加公表する [SRC-01896]
異説・論争定説のない論点があります

確認された異説・論点を1件記す(調査範囲: 国立天文台〔EHT13パートナー機関の1つ〕・ヨーロッパ南天天文台〔ESO・EHTの構成望遠鏡アルマ望遠鏡とAPEXを通じて貢献〕の各公式発表、計2点)。両機関の発表は、いずれもEHTコラボレーションを構成する当事者自身によるものであり、自機関・自国の貢献を重点的に紹介する傾向がある。本サイトは各機関の貢献度に独自の序列をつけず、それぞれの発表内容を帰属を明示して併記する。

論点 説 根拠・出典 学界での位置づけ
EHT観測局の中でどの機関・地域の貢献がもっとも重要だったか 国立天文台は、日本・台湾・韓国・北米・欧州が共同運用するアルマ望遠鏡が参加望遠鏡の中でもっとも感度が高く、EHT全体の感度向上に大きく貢献したと説明する。アルマ望遠鏡をEHTに組み込むためのデータ伝送装置は国立天文台が開発したとも記す [SRC-01892] EHT13パートナー機関の1つである国立天文台自身による発表。両論とも「アルマ望遠鏡の高感度がEHTの成功に寄与した」という点では一致しており、事実そのものへの対立ではない。強調点の違いは、各機関が自らの貢献を紹介する文脈によるものである
同上 ESOは、チリに立地するアルマ望遠鏡・APEXの2望遠鏡の運用を通じた欧州の主導的役割を強調し、ESO長官(当時、ザビエル・バルコンス氏)がアルマ望遠鏡をEHTの中でもっとも感度の高い施設と評したことを紹介する(原文: "ALMA is the most sensitive facility in the EHT") [SRC-01893] EHTの構成望遠鏡アルマ望遠鏡・APEXを通じて貢献するESO自身による発表。貢献度の相対的な序列を判定する第三者評価は、登録出典の範囲では確認できなかった

関連する出来事

EHTコラボレーションは2022年5月12日、同じ観測ネットワークによる2017年の観測データを用いて、地球からおよそ2万7000光年離れた天の川銀河中心の超大質量ブラックホール「いて座A*」の画像を追加公表した[SRC-01896]。国立天文台は、この2022年の成果を「EHTが2019年に発表したM87の中心にある巨大ブラックホールの画像に続くもの」と位置づけている[SRC-01896]。

関連人物

歴史的意義

今回の成果は、アインシュタインの一般相対性理論が予言したブラックホールシャドウを、初めて直接的な視覚的証拠として示すものとなった[SRC-01892][SRC-01893]。東アジア天文台長のポール・ホー氏は、観測で得られた画像が理論的予測と驚くほどよく一致していたと述べている[SRC-01892]。EHTプロジェクトディレクターのドールマン氏は、この成果を「私たちは、一世代前ならまったく不可能であったことを成し遂げたのです」と位置づけた[SRC-01892]。(この評価はドールマン氏自身の発言として紹介するものであり、本サイト自身が技術的成果の大きさを評価するものではない)

現代の視点

EHTコラボレーションは2019年のM87画像公開に続き、2022年5月12日には同じ観測ネットワークによる2017年の観測データを用いて、地球からおよそ2万7000光年離れた天の川銀河中心の超大質量ブラックホール「いて座A*」の画像を追加公表した[SRC-01896]。国立天文台は、この2022年の成果を「EHTが2019年に発表したM87の中心にある巨大ブラックホールの画像に続くもの」と位置づけている[SRC-01896]。天の川銀河のブラックホールはM87のブラックホールと比べて1000分の1以下の質量だが、2つのブラックホールの見た目は非常によく似ていると国立天文台は説明する[SRC-01896]。(本稿の整理: 質量・距離の異なる2つのブラックホールの画像が得られたことで、研究者はこのような極限環境で重力がどのように振る舞うかを、より多くの方法で検証できるようになった、という位置づけである[SRC-01896])

出典一覧

  1. [SRC-01892] 史上初、ブラックホールの撮影に成功 ― 地球サイズの電波望遠鏡で、楕円銀河M87に潜む巨大ブラックホールに迫る | 国立天文台(NAOJ)/国立天文台(大学共同利用機関法人自然科学研究機構)(ランクA)
  2. [SRC-01893] Astronomers Capture First Image of a Black Hole (ESO Press Release eso1907)/ヨーロッパ南天天文台(European Southern Observatory, ESO)(ランクA)
  3. [SRC-01894] First M87 Event Horizon Telescope Results. I. The Shadow of the Supermassive Black Hole (arXiv:1906.11238)/The Event Horizon Telescope Collaboration(The Astrophysical Journal Letters, 875, L1, 2019年4月10日付。arXiv経由でアブストラクトページを確認)(ランクA)
  4. [SRC-01895] First M87 Event Horizon Telescope Results. VI. The Shadow and Mass of the Central Black Hole (arXiv:1906.11243)/The Event Horizon Telescope Collaboration(The Astrophysical Journal Letters, 875, L6, 2019年4月10日付。arXiv経由でアブストラクトページを確認)(ランクA)
  5. [SRC-01896] 天の川銀河中心のブラックホールの撮影に初めて成功 | 国立天文台(NAOJ)/国立天文台(大学共同利用機関法人自然科学研究機構)(ランクA)

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訂正履歴

版日付事実主張への変更
12026-09-29あり
22026-09-29あり
32026-09-29あり
42026-09-29あり

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