レムキンが名付けた罪を裁く条約が、1948年12月9日にパリで採択された——政治的集団は保護の対象に含まれなかった
日付と暦
- 原典表記
- 1948年12月9日(グレゴリオ暦)
- 換算
- 1948-12-09(グレゴリオ暦)
- 掲載日
- 12月9日のページ
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概要
1948年12月9日、パリのシャイヨ宮での国連総会第3会期第179回本会議に先立って、ラファエル・レムキンは、第六委員会委員長リカルド・アルファロ(パナマ)と言葉を交わしていたと、国連の写真記録は伝える[SRC-00913]。レムキンは、1944年の著書で「genocide」という語を初めて用いた人物であり、この日、国連総会は決議260号(III)Aにより、彼が名付けた行為を国際法上の犯罪として裁く条約——集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約——を採択した[SRC-00912][SRC-00913][SRC-00914][SRC-00915]。条約第2条は、集団の全部又は一部を破壊する意図をもって行われる行為の対象を、国民的・民族的・人種的又は宗教的集団に限定した[SRC-00912][SRC-00914]。採択に先立つ同年11月、アメリカ代表アーネスト・グロスは、条約の適用範囲を政治的集団の保護にも広げるべきだと声明で述べていたが[SRC-00913]、最終的な条文にその集団は含まれなかった[SRC-00912][SRC-00914]。
本文
総会がこの条約の作成を委任したのは、2年前にさかのぼる[SRC-00912][SRC-00913]。条約前文が想起するところによれば、総会は1946年12月11日の決議96号(I)で、集団殺害が国際法上の犯罪であり、国連の精神及び目的に反し、文明世界がこれを断罪するものであると宣言していた[SRC-00912][SRC-00914]。この宣言を受け、国連事務局は、レムキンを含む3名の専門家の助力を得て草案を作成した[SRC-00913]。草案は続いて、経済社会理事会の下に設置された7か国代表からなるアドホック委員会で改訂され、最終的に総会第六委員会での交渉を経て、本会議での採択に付された[SRC-00913]。
第六委員会での交渉では、事務局の専門家が当初提案していた「文化的集団殺害」という類型が、審議の末に条約の対象から除外された。ただし、集団に属する児童を他の集団へ強制的に移す行為を処罰対象とする規定は、例外として条文に残された(第2条(e))[SRC-00913]。アメリカ代表アーネスト・グロスは、採択に先立つ1948年11月3日の声明で、条約の適用範囲を政治的集団の保護にも広げることの重要性を強調していたが[SRC-00913]、12月9日に採択された条文が保護の対象としたのは、国民的・民族的・人種的又は宗教的の4類型の集団のみだった[SRC-00912][SRC-00914]。
歴史的背景
この条約が生まれた背景には、ニュルンベルク国際軍事裁判の限界があったとシャバスは位置づける[SRC-00913]。同裁判の最終判決(1946年9月30日〜10月1日)には「genocide」という語自体は現れず、関連する行為は「人道に対する罪」という概念で扱われた[SRC-00913]。この行為を独立の国際犯罪として国際法上に位置づけ直す動きが、決議96号(I)を経て本条約の起草へとつながった[SRC-00913]。条約第1条は、集団殺害を平時・戦時を問わず防止・処罰の対象とする国際法上の犯罪と確認する[SRC-00912][SRC-00914]。
タイムライン
| 日付(暦種別を明記) | 出来事 | 出典 |
|---|---|---|
| 1944年(グレゴリオ暦・刊行年) | レムキン、著書『Axis Rule in Occupied Europe』で「genocide」の語を初めて用いる | [SRC-00913] |
| 1946-09-30〜1946-10-01(グレゴリオ暦) | ニュルンベルク国際軍事裁判の最終判決。判決文に「genocide」の語は現れない | [SRC-00913] |
| 1946-12-11(グレゴリオ暦) | 国連総会、決議96号(I)により集団殺害を国際法上の犯罪と宣言し、条約草案の作成を求める | [SRC-00912][SRC-00913] |
| 1948-11-03(グレゴリオ暦) | アメリカ代表グロス、政治的集団の保護を含む適用範囲拡大を求める声明 | [SRC-00913] |
| 1948-12-09(グレゴリオ暦) | 国連総会第179回本会議、決議260号(III)Aにより条約を採択 | [SRC-00912][SRC-00913][SRC-00914][SRC-00915] |
| 1948-12-10(グレゴリオ暦・関連) | 国連総会第183回本会議、決議217号(III)Aにより世界人権宣言を採択 | [SRC-00916] |
| 1951-01-12(グレゴリオ暦) | 第13条の要件(批准書等が20か国に達した日から90日後)を満たし、条約が発効 | [SRC-00914][SRC-00915] |
異説・論争 — 定説のない論点があります(開く)
条約第2条の定義(保護対象となる集団の範囲)は、第六委員会での交渉過程で争われた論点であり、現代の個別の集団殺害認定を巡る論争ではなく、1948年当時の国際法起草史として整理する(調査範囲: 本記事はニュルンベルク国際軍事裁判以降・条約採択に至る起草過程の一次資料・国連自身の解説に限定して調査した)。
| 論点 | 説 | 根拠・出典 | 学界での位置づけ |
|---|---|---|---|
| 条約の定義(第2条)に政治的集団を含めるべきか | 含めるべきである——アメリカ代表グロスは1948年11月3日の声明で、条約の適用範囲を政治的集団の保護にも広げることの重要性を強調した | [SRC-00913] | 国連事務局人権部のエミール・ジラウは、1948年7月24日の国連ラジオ収録声明で、集団殺害条約を作成する意義を、文化的集団殺害の考慮・保護を受ける人的集団の決定・裁く法廷の選択という3つの見解の相違を乗り越える試みとして語った(学界の見解ではなく、起草当時の国連事務局担当者による整理)[SRC-00913] |
| 同上 | 最終的な条文(第2条)は政治的集団を含めず、国民的・民族的・人種的又は宗教的集団の4類型に限定した | [SRC-00912][SRC-00914] | この定義はその後の旧ユーゴスラビア・ルワンダ国際刑事裁判所規程や国際刑事裁判所ローマ規程にも変更なく引き継がれている。シャバスは、この定義が改定されずに続いてきた背景を、1990年代に「人道に対する罪」の概念が拡張され、狭い定義が残す欠落が実務上補われてきたためだと分析する[SRC-00913] |
| 文化的集団殺害を条約の対象に含めるべきか | 国連事務局の専門家案は、物理的・生物学的・文化的の3類型に分けて集団殺害を提案していたが、第六委員会は文化的集団殺害を条約の対象から除外する票決を行った(児童の強制移送〔第2条(e)〕のみ例外として残された) | [SRC-00913] | シャバスは、起草過程のこうした議論が、後の判例が「民族浄化」を定義の範囲から事実上除外する根拠として参照されてきたと指摘する[SRC-00913] |
関連する出来事
- 1946年12月11日、国連総会は決議96号(I)により集団殺害を国際法上の犯罪と宣言し、この条約の草案作成を求めた[SRC-00912][SRC-00913]
- 1948年12月10日、同じ国連総会第3会期の第183回本会議で、世界人権宣言が決議217号(III)Aにより採択された[SRC-00916]
関連人物
- ラファエル・レムキン(らふぁえる・れむきん): 1944年の著書『Axis Rule in Occupied Europe』で「genocide」という語を初めて用い、条約の国連事務局草案の作成を助けた3名の専門家の一人[SRC-00913]
- アーネスト・グロス(あーねすと・ぐろす): アメリカ代表として、条約採択に先立つ1948年11月3日の声明で、政治的集団の保護を含む適用範囲の拡大を求めた[SRC-00913]
歴史的意義
シャバスの整理によれば、この条約は国連総会が採択した最初の人権条約だったとされる[SRC-00913]。条約第2条の定義は、後の旧ユーゴスラビア・ルワンダ国際刑事裁判所規程や国際刑事裁判所ローマ規程にも、変更なく引き継がれた[SRC-00913]。一方でシャバスは、この条約が保護対象・裁判管轄の範囲で限定的なまま今日に至っていることも、同じ起草史の帰結として指摘する[SRC-00913]。
現代の視点
シャバスは、条約第2条の定義が採択から半世紀以上を経ても改定されていない一方で、その司法解釈は集団の意図的な物理的破壊に限定され続けており、文化への迫害を伴う攻撃や「民族浄化」という現象はその対象に含まれてこなかったと指摘する[SRC-00913]。政治的集団や文化的迫害が条約の保護の外に置かれた経緯は、現在の条文の文言としてではなく、1948年の起草史そのものに由来する(異説・論争欄参照。本サイトの整理)。
出典一覧
- [SRC-00912] Resolution 260 (III) A: Adoption of the Convention on the Prevention and Punishment of the Crime of Genocide, and text of the Convention — Official Records of the General Assembly, Third Session/United Nations(国連総会公式記録・国連デジタル文書システムODS)(ランクS)
- [SRC-00913] Convention on the Prevention and Punishment of the Crime of Genocide — United Nations Audiovisual Library of International Law(Historic Archives)/United Nations Audiovisual Library of International Law(国連法務局)(ランクA)(複数の資料を収載)
- [SRC-00914] Convention on the Prevention and Punishment of the Crime of Genocide; December 9, 1948 — The Avalon Project/The Avalon Project, Lillian Goldman Law Library, Yale Law School(ランクA)
- [SRC-00915] Chapter IV Human Rights, 1. Convention on the Prevention and Punishment of the Crime of Genocide — United Nations Treaty Collection(Depositary Status of Treaties)/United Nations Treaty Collection(国連事務局条約局・寄託者としての公式記録)(ランクS)
- [SRC-00916] Resolution 217 (III) A: Universal Declaration of Human Rights — Official Records of the General Assembly, Third Session/United Nations(国連総会公式記録・国連デジタル文書システムODS)(ランクS)
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訂正履歴
| 版 | 日付 | 事実主張への変更 |
|---|---|---|
| 1 | 2026-09-06 | あり |
| 2 | 2026-09-06 | あり |
| 3 | 2026-09-06 | なし |
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