『種の起源』刊行、ダーウィンさえ驚いた『売れ行き』の知らせ——1859年11月24日

日付と暦

原典表記
1859年11月24日(グレゴリオ暦)
換算
1859-11-24(グレゴリオ暦)
掲載日
11月24日のページ

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概要

1859年11月24日、ロンドンの出版者ジョン・マリーより、チャールズ・ダーウィンの『種の起源』(正式書名「ON THE ORIGIN OF SPECIES BY MEANS OF NATURAL SELECTION, OR THE PRESERVATION OF FAVOURED RACES IN THE STRUGGLE FOR LIFE.」)第1版が刊行された[SRC-00797][SRC-00799]。初刷は1,250部だった[SRC-00793][SRC-00797]。刊行の2日前、11月22日に開かれた取次向け販売では、注文が刷り部数を上回った[SRC-00794][SRC-00797]。ダーウィンは11月24日、出版者マリーから売れ行きの知らせを受け取り、療養先から「あなたの〔本の〕売れ行きの知らせに驚愕しています」("I am astounded at your news of sale.")と返信した[SRC-00794][SRC-00795]。もっとも、刊行日に一般読者へ売り切れたという理解の中身については、書誌学者による検討で留保が付けられている[SRC-00797]。刊行前後には、学界・論壇から強い反発も起きた[SRC-00794][SRC-00796]。

本文

標題紙には「ON THE ORIGIN OF SPECIES BY MEANS OF NATURAL SELECTION, OR THE PRESERVATION OF FAVOURED RACES IN THE STRUGGLE FOR LIFE.」(自然選択による種の起源、すなわち生存闘争において有利な種族が保存されることについて)とあり、著者は「CHARLES DARWIN, M.A., FELLOW OF THE ROYAL, GEOLOGICAL, LINNÆAN, ETC., SOCIETIES」、刊行地は「LONDON: JOHN MURRAY, ALBEMARLE STREET. 1859.」と記されている[SRC-00799]。出版者ジョン・マリーは、ロンドンに来てマリーへ改姓したスコットランド人ジョン・マクマリーの孫にあたり、政治・旅行・科学のノンフィクションを専門としていた[SRC-00792]。

刊行に先立つ11月22日、マリーは取次向け販売を開いた。ここでの注文は初刷1,250部を上回った[SRC-00794]。ダーウィン書簡集プロジェクトはこの超過分を250部(総数1,500部)と記す。書誌学者R. B. フリーマンも「大半の資料は1,500部というが、1,493部とする資料もある」("most sources say that 1,500 were taken up, others 1,493")と、1,500部を大半の資料が挙げる値として記したうえで、資料間で数値が完全には一致しないことを指摘している[SRC-00793][SRC-00797]。フリーマンはさらに、印刷された1,250部のうち実際に販売へ充てられたのは1,192部にとどまり(残りは著者用12部・書評用41部・著作権登録のためのステーショナーズ・ホール〔Stationers' Hall〕への納本用5部)、ダーウィン自身の贈呈分を除くと最終的に取次向けに供給可能だった部数は約1,170部だったと算出している[SRC-00797]。

11月24日、ダーウィンはマリーから売れ行きの知らせを受け取り、療養先のヨークシャー・イルクリー・ウェルズから「あなたの〔本の〕売れ行きの知らせに驚愕しています」("I am astounded at your news of sale.")と返信した[SRC-00794][SRC-00795]。同じ日、ダーウィンはトマス・ハクスリーにも「本日マリーから、私の本の全版を初日に売ったと聞いた」("I have heard from Murray today that he sold the whole edition of my book the first day.")と書き送ったとされる。この逐語は、書誌学者R. B. フリーマンがダーウィンの日記とあわせて引用する形で伝えるものである[SRC-00797]。ダーウィン自身の日記にも「初版は11月24日に出版され、全部数が初日に売れた」("The first edition was published on November 24th, and all copies sold first day.")との記述があるという[SRC-00797]。ただし、フリーマンは刊行日に一般読者へ売り切れたという理解そのものに留保を付ける。フリーマンによれば、この数字は印刷部数の実際の内訳と食い違ううえ、書店に本が届いた後、それが実際に一般読者へ売れたかどうかを当時確認する手段はなかったはずだという[SRC-00797]。ここで「売れた」とされているのが、取次向け販売で引き受けられた部数にすぎない可能性がある点は、同日付でダーウィンがマリーへ宛てた書簡について、ダーウィン書簡集プロジェクトが要約欄に記す「〔書店筋への〕『種の起源』の売れ行きに驚愕」という記述[SRC-00795]、およびマリーの取次向け販売の在庫が初日で売り切れたとする同プロジェクトの解説[SRC-00792]に基づく、本サイトの整理である。

歴史的背景

刊行の前段には、1858年6月にダーウィンのもとへ届いたアルフレッド・ラッセル・ウォレスの書簡がある。同封の論文でウォレスが独自に自然選択の理論を述べていたことにダーウィンは衝撃を受けたとされる[SRC-00794]。この経緯を経て、1858年7月1日、ダーウィンとウォレスの両論文がロンドンのリンネ協会で共同で発表された[SRC-00794]。

刊行前後、学界・論壇からは強い反発があった。ダーウィン書簡集プロジェクトによれば、11月中旬には早くも『種の起源』への最初の書評が現れ始め、その一つ、Athenæum誌の書評は科学的な当否ではなく神学上の理由で本書を退けたためダーウィンを動揺させたという[SRC-00794]。ダーウィンは11月22日付の友人宛書簡で、これを「聖職者たちを私にけしかけ、私を彼らの慈悲に委ねる」("sets the Priests at me & leaves me to their mercies")ものだと書き送ったとされる[SRC-00794]。刊行当日の11月24日には、ケンブリッジ大学ウッドワード記念地質学講座教授アダム・セジウィックが、ダーウィン宛書簡で本書を「まったくの誤りであり甚だしく有害」("utterly false & grievously mischievous")と評し、ダーウィンが「真の帰納法」("the true method of induction")を捨てたと非難した[SRC-00796]。ジョン・ハーシェルは、自然選択を「ごちゃまぜの法則」("law of higgledy-piggledy")と呼んだと伝えられる[SRC-00794]。もっとも12月末には、タイムズ紙が好意的な書評を掲載し、ダーウィンを驚かせたとも伝えられる[SRC-00794]。

タイムライン

日付(暦種別を明記) 出来事 出典
1858年6月(グレゴリオ暦) ウォレスの書簡・論文がダーウィンのもとへ届く [SRC-00794]
1858年7月1日(グレゴリオ暦) ダーウィンとウォレスの両論文がリンネ協会で共同発表される [SRC-00794]
1859年10月1日(グレゴリオ暦) ダーウィンが序文にダウン(ケント州ブロムリー)の署名・日付を記す(刊行日ではなく執筆完了時点の日付) [SRC-00799][SRC-00793]
1859年11月22日(グレゴリオ暦) 出版者マリーが取次向け販売を開催。注文が初刷1,250部を上回る [SRC-00794][SRC-00797]
1859年11月24日(グレゴリオ暦) 『種の起源』第1版が刊行される。ダーウィンがマリーから売れ行きの知らせを受け取る [SRC-00797][SRC-00799][SRC-00795]
1859年11月24日(グレゴリオ暦) アダム・セジウィックがダーウィンへ批判的な書簡を送る [SRC-00796]
1859年12月末(グレゴリオ暦) タイムズ紙が好意的な書評を掲載 [SRC-00794]

暦の注記: 上表はいずれもグレゴリオ暦であり、1858〜1859年の本事象に暦種別の複雑さ(改暦境界等)は生じない。換算は不要である。

異説・論争 — 定説のない論点があります(開く)

刊行史の資料には、いくつかの点で幅がある。第一に、刊行日そのものの呼び方である。Darwin Online(編者John van Wyhe)は初版原本の翻字版冒頭で「1859年11月24日に出版された」("It was published on 24 November 1859.")と明記している[SRC-00799]。一方、ダーウィン書簡集プロジェクトの解説ページの一つは、冒頭で「1859年11月22日に出版された」("was published on 22 November 1859")と記している[SRC-00792]。同プロジェクトの別ページ(書簡の年表)は、22日を「取次向け公表日」("trade publication day")、24日をマリーからの売れ行き報告をダーウィンが受け取った日として書き分けている[SRC-00793]。書誌学者R. B. フリーマンも、印刷部数の内訳や「即日完売」言明への留保を検討する中で24日を刊行日として扱っており、この書き分けと符合する[SRC-00797]。本サイトはこの整理に従い、11-24を掲載日とする(本サイトの整理)。

第二に、取次向け販売(11月22日)で引き受けられた部数である。ダーウィン書簡集プロジェクトは初刷1,250部を250部上回った(総数1,500部)と記す。フリーマンも1,500部を大半の資料が挙げる値として記したうえで、1,493部とする資料もあり数値が資料間で完全には一致しないと書誌学的に指摘している[SRC-00793][SRC-00797]。

第三に、「刊行日に初刷1,250部すべてが一般読者に売り切れた」という、しばしば見られる理解の実態である。この理解の出所は、ダーウィン自身の日記の「初版は11月24日に出版され、全部数が初日に売れた」("The first edition was published on November 24th, and all copies sold first day.")という記述と、11月24日付のハクスリー宛書簡の「本日マリーから、私の本の全版を初日に売ったと聞いた」("I have heard from Murray today that he sold the whole edition of my book the first day.")という記述にあるとフリーマンは特定する[SRC-00797]。フリーマンが指摘するのは、この数字が印刷部数の実際の内訳と食い違うことと、書店に本が届いた後にそれが実際に一般読者へ売れたかどうかを当時確認する手段はなかったはずだということの2点である[SRC-00797]。「売れた」の実態が取次向け販売で引き受けられた部数を指すにすぎない可能性がある、という解釈自体は、フリーマンの指摘そのものではなく、同日付でダーウィンがマリーへ宛てた書簡についてダーウィン書簡集プロジェクトが要約欄に記す記述(「〔書店筋への〕売れ行きに驚愕」)[SRC-00795]およびマリーの取次向け販売の在庫が初日で売り切れたとする同プロジェクトの解説[SRC-00792]に基づく、本サイトの整理である。他の書誌学者による追認は本稿の登録出典の範囲では確認できていない。

第四に、刊行前後の受け止め方そのものが割れている。Athenæum誌の書評(刊行前の11月中旬に登場)は神学上の理由で本書を退けたとダーウィン書簡集プロジェクトは記す一方、セジウィックの書簡(刊行当日の11月24日付)は「真の帰納法」("the true method of induction")を捨てたという方法論上の批判を中心に据えている[SRC-00794][SRC-00796]。両者は同時代に併存した反応であり、いずれか一方が「正しい」批判というものではない。

論点 根拠・出典 学界での位置づけ
刊行日をどう呼ぶか 11月24日を刊行日(一般発売日)とする Darwin Onlineの編集注記、書誌学者フリーマンの記述 [SRC-00799][SRC-00797] 標準的な書誌学的整理。本サイトはこれに従う
同上 11月22日を出版日と表記する資料もある ダーウィン書簡集プロジェクトの一部ページ [SRC-00792] 同プロジェクトの別ページ・フリーマンの整理では22日は取次向け販売日とされる(本サイトの整理: 呼称の幅の理由そのものは登録出典に記述がない)
取次向け販売での引受部数 総数1,500部(初刷を250部超過) ダーウィン書簡集プロジェクト(フリーマンも大半の資料の値として同じ数値を記す) [SRC-00793][SRC-00797]
同上 1,493部とする資料もある 書誌学者フリーマンの指摘 [SRC-00797] フリーマン自身、資料間で数値が完全には一致しないと明記
刊行日に完売したという理解 ダーウィン自身がそう記録し、広く信じられてきた ダーウィンの日記・11月24日付ハクスリー宛書簡(フリーマンが引用) [SRC-00797] 通説として広まっている
同上 実際に一般読者へ売れたかは当時確認できず、取次への引受部数を指すにすぎない可能性がある フリーマンの書誌学的な留保(数字の食い違い・実売確認手段の不在)+本サイトの整理(取次引受部数を指す可能性の解釈) [SRC-00797] フリーマンの学術的な留保。[SRC-00792][SRC-00795] 解釈の裏付け。本稿の登録出典の範囲では他の書誌学者による追認は未確認
刊行への反応 神学上の理由で退ける論調があった(Athenæum誌書評・刊行前の11月中旬) ダーウィン書簡集プロジェクト [SRC-00794] 同時代の宗教界からの反発の一例
同上 科学的方法論を理由に退ける論調があった(セジウィックの「真の帰納法」批判・刊行当日の11月24日付) セジウィックの書簡(1859年11月24日) [SRC-00796] 同時代の学界(地質学者)からの反発の一例。神学上の反発と方法論上の反発は同時代に併存した

関連する出来事

関連人物

歴史的意義

R. B. フリーマンの詳細な書誌学的検討が、初版即日完売という広く流布した理解の出所をダーウィン自身の日記・書簡にまで遡って特定できていることは、この出来事の史料としての厚みを示している[SRC-00797]。刊行前後の受け止め方も一様ではなく、神学上の反発と学問方法上の反発の双方が、同時代の書簡・書評の中に記録として残っている[SRC-00794][SRC-00796]。

現代の視点

刊行日に初版が即日完売したという逸話は、今日でもしばしば紹介される(本サイトの整理)。しかし本稿で見たとおり、この逸話の骨格をなす一次資料(ダーウィンの日記・書簡)自体は「全版が売れた」("sold the whole edition")としか記しておらず、それが取次向け販売での引き受けなのか、一般読者への実売なのかを書き分けてはいない。この間隙を、後年の書誌学的検討がどう埋めようとしてきたかという点に、出版史料を扱う際の注意点が表れている(本サイトの整理)。

出典一覧

  1. [SRC-00792] Charles Darwin and his publisher/Darwin Correspondence Project, University of Cambridge(ランクA)
  2. [SRC-00793] Darwin's Works in Letters: Origin/Darwin Correspondence Project, University of Cambridge(ランクA)
  3. [SRC-00794] The writing of 'Origin'/Darwin Correspondence Project, University of Cambridge(ランクA)
  4. [SRC-00795] Letter no. DCP-LETT-2549 — Charles Darwin to John Murray, 24 November [1859]/Darwin Correspondence Project, University of Cambridge(ランクA)
  5. [SRC-00796] Letter no. DCP-LETT-2548 — Adam Sedgwick to Charles Darwin, 24 November 1859/Darwin Correspondence Project, University of Cambridge(ランクA)
  6. [SRC-00797] On the Origin of Species — bibliographical introduction by R. B. Freeman/Darwin Online (The Complete Work of Charles Darwin Online), ed. John van Wyhe, National University of Singapore(ランクA)
  7. [SRC-00798] Freeman Bibliographical Database — record F373 (On the origin of species, 1859, 1st ed.)/Darwin Online (The Complete Work of Charles Darwin Online), ed. John van Wyhe, National University of Singapore(ランクA)
  8. [SRC-00799] On the origin of species by means of natural selection (1859, 1st ed.) — full text, F373/Darwin Online (The Complete Work of Charles Darwin Online), ed. John van Wyhe, National University of Singapore(ランクA)

本文中の [SRC-nnnnn] はこの一覧の番号を指します。各出典の所在・参照日・信頼度の判定は検証記録で確認できます。

訂正履歴

日付事実主張への変更
12026-09-05あり
22026-09-05あり
32026-09-05あり

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