UCLAからSRIへのARPANET最初のホスト間通信は、「login」の「lo」まで送信したところでクラッシュしたとされる

日付と暦

原典表記
1969年10月29日(グレゴリオ暦)
換算
1969-10-29(グレゴリオ暦)
掲載日
10月29日のページ

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概要

1969年10月29日22時30分、UCLAからSRIへのARPANET最初のホスト間通信が試みられた[SRC-00531][SRC-00532]。当時UCLAで記入された手書きのIMPログ(業務日誌)には、その時刻の欄に「Talked to SRI Host to Host」と記され、署名は「CSK」である[SRC-00531]。Kleinrock本人の回想によれば、CSKは学生プログラマーのチャーリー・クラインを指し、「l」「o」の2文字を送った直後にSRI側システムがクラッシュしたとされる[SRC-00531]。接続先は「スタンフォード大学」("Stanford University")ではなくSRIである[SRC-00531][SRC-00532][SRC-00533]。

本文

Kleinrock本人はこのログを「ARPANET上で送信された最初のメッセージの記録」("a record of the first message ever sent over the ARPANET")と位置づけている[SRC-00531]。同氏の解説によれば送信内容は「login」であり、「l」と「o」の送信には成功したが直後にシステムがクラッシュして「lo」の2文字にとどまり、完全なログインは約1時間後に成功したという[SRC-00531]。この文字数・所要時間・個人名の記述はKleinrock本人の後年の回想にのみ現れ、同時代のIMPログ本体には送信文字列も個人名も記されていない(異説・論争欄で扱う)[SRC-00531]。Computer History Museum(CHM)は、この同じ「UCLAの手書きログ」("handwritten logs from UCLA")を典拠として明示したうえで、1969年10月29日にUCLAからSRIへの「最初のホスト間接続」("the first host-to-host connection")が行われ、最初の「ログイン」がSRI側ホストをクラッシュさせたと記す[SRC-00532]。

歴史的背景

日本大百科全書は、ARPANETを「アメリカ国防総省高等研究計画局(ARPA、後のDARPA)が、核戦争が起こった場合などにも生き残れる通信ネットワークとして開発した、世界初のパケット通信網」と記す[SRC-00534]。Internet Societyが公開する、Kleinrock自身を含むARPANET開発当事者9名の共著essayは、クラインロックによるパケット交換理論の早期開発ゆえにUCLAのネットワーク測定センターがARPANET最初のノードに選ばれたと記す[SRC-00533]。1969年9月、BBNが最初のIMPをUCLAに設置し、第二のノードにはダグラス・エンゲルバートの「人間の知性増強」("Augmentation of Human Intellect")プロジェクトを進めていたSRIが選ばれた[SRC-00533]。同年4月7日にはUCLAのスティーブ・クロッカーが「Request for Comments」と題するメモを回覧し、RFCシリーズの最初の1通となった[SRC-00532]。

タイムライン

日付(暦種別を明記) 出来事 出典
1969年4月7日(グレゴリオ暦) UCLAのスティーブ・クロッカーが「Request for Comments」と題するメモを回覧(RFCシリーズの最初の1通) [SRC-00532]
1969年9月 BBNがUCLAに最初のIMPを設置し、最初のホストコンピュータが接続される [SRC-00533]
1969年10月29日 22:30 UCLAのIMPログに「Talked to SRI Host to Host」と記録される(署名「CSK」) [SRC-00531]
同日 22:30ごろ Kleinrockの回想では、UCLAのSDSシグマ7ホストからSRIのSDS940ホストへ「login」を送り、「l」「o」の2文字を送ったところでクラッシュしたとされる [SRC-00531]
同日、約1時間後 完全なログインに成功したとされる(Kleinrockの回想。Computer History Museumは「次の試みは成功した」〔"but the next attempt works!"〕と記すのみで、間隔は明記しない) [SRC-00531][SRC-00532]
1969年末までに カリフォルニア大学サンタバーバラ校・ユタ大学が加わり、ARPANETは4台のホストコンピュータの接続を完成させた [SRC-00533]

暦の注記: 上表の日付はいずれもグレゴリオ暦。当時の米国は既にグレゴリオ暦を用いており、暦の換算は生じない。

異説・論争 — 定説のない論点があります(開く)
論点 根拠・出典 学界での位置づけ
送信内容の具体的な文字数(「l」「o」の2文字) Kleinrock本人による後年の回想(地の文の解説)にのみ記載され、同時代のIMPログ本体には「Talked to SRI Host to Host」という要約的な記録があるのみで、具体的な送信文字列の記載はない [SRC-00531] 同一Source(Kleinrockのページ)内での記述粒度の相違。同時代の直接記録(ログ本体)と、当事者本人による約半世紀後の回想(地の文)とでは、具体性の水準が異なる点に留意が必要
「最初の◯◯」が何を指すか(説A: 最初のメッセージ Kleinrock本人は、クラッシュで途切れた「lo」そのものを「ARPANET上で送信された最初のメッセージ」("the first message ever sent over the ARPANET")と呼び、その記録として当該IMPログを示す [SRC-00531] 焦点は送られた文字列にある。したがって「最初」の対象は、成功した通信ではなく途中で途切れた送信そのものになる(本サイトの整理)
同上(説B: 最初のホスト間接続 Computer History Museumは、UCLAの手書きログを典拠として「UCLAからSRIへの最初のホスト間接続が1969年10月29日に行われた」("the first host-to-host connection, from UCLA to SRI, is made on October 29, 1969")と記す [SRC-00532] 焦点は接続の成立にあり、日付を10月29日に特定する。同じ出来事を指しながら、説Aとは「最初」と呼ぶ対象が異なる(本サイトの整理)
同上(説C: 日付を与えない最初のホスト間メッセージ Internet Society公開の当事者共著essayは、「1か月後、SRIがARPANETに接続されると、クラインロックの研究室からSRIへ最初のホスト間メッセージが送られた」("One month later, when SRI was connected to the ARPANET, the first host-to-host message was sent from Kleinrock's laboratory to SRI.")と記す [SRC-00533] 具体的な日付・時刻・結末(クラッシュ)を与えず、「1か月後」という相対表現にとどまる。本記事の登録出典を「October 29」「22:30」「crash」で走査した結果、この3語はいずれも当該essayに現れない(本サイトの走査結果)
完全なログイン成功までの所要時間 Kleinrock本人は「約1時間後」と回想する [SRC-00531] 単独系統(Kleinrock本人)の証言
同上 Computer History Museumは「次の試みは成功した」と記すのみで、再試行までの具体的な時間間隔は示さない [SRC-00532] 「約1時間後」という具体的な数値はCHM側からは裏づけられていない(否定するものでもない)

証拠の系統についての補足(本サイトの整理): 上記3説の出典は、たがいに独立した系統ではない。SRC-00533(Internet Society)の著者行にはSRC-00531の筆者Leonard Kleinrock自身が共著者として並び、SRC-00532(Computer History Museum)は自ら「UCLAの手書きログ」("handwritten logs from UCLA")を典拠と明示しており、SRC-00531が公開する原簿と同じ資料に遡る。本記事が日付・時刻・接続先について依拠しているのは、1969年当時に記入された手書きIMPログ(同時代記録)そのものと、その同じログを典拠として同じ日付を記すCHMの解説であって、複数系統の独立した一致ではない。

接続先機関名についての補足(本サイトの整理): 本記事の登録出典3件(SRC-00531・SRC-00532・SRC-00533)を「Stanford University」の語で走査した結果はいずれも0件であり、接続先は「SRI」ないし「Stanford Research Institute」と記されている。ただし「Stanford Research Institute」という完全な語形が現れるのはSRC-00532・SRC-00533の2件で、SRC-00531は略称「SRI」のみを用いる。SRIはスタンフォード大学と歴史的な関係を持つ研究機関だが、本記事の登録出典の範囲では両者を同一の機関として扱う記述は確認できなかった(確認された異説: なし。調査範囲: 上記出典)。

日本語の主要事典の記述粒度について(本サイトの整理): コトバンク収載の日本語事典4件(デジタル大辞泉・日本大百科全書・ブリタニカ国際大百科事典・IT用語がわかる辞典)は、いずれも1969年に4拠点を結ぶ形でARPANETの運用が始まったという年単位・規模単位の記述にとどまり、10月29日という日付にもSRIという接続先にも言及しない[SRC-00534]。これは上記の説A〜Cと対立する別の説ではなく、記述の不在である。事典が触れていないことは、10月29日の通信の試みに対する反証にはならない。

日本語の機関名表記について(本サイトの整理): 本記事が用いる「カリフォルニア大学サンタバーバラ校」「ユタ大学」などの日本語表記は、英語出典(SRC-00533)の "UC Santa Barbara"・"University of Utah" に対する本サイトの訳出である。登録出典に当該日本語表記が存在するのは「カリフォルニア大学ロサンゼルス校」(ブリタニカ国際大百科事典)のみである[SRC-00534]。

関連する出来事

本件通信の記録が残るIMPログの同じページには、その約1時間半前(21:00)の欄に「LOADED OP. PROGRAM FOR BEN BARKER BBN」という記録があり、署名は「CSK」である[SRC-00531]。22:30の記録に続く欄には「Left op. imp program running after sending a host dead message to imp.」との記載がある[SRC-00531]。「OP.」「op. imp」が具体的に何のプログラムを指すか、またこの記載がUCLA側・SRI側いずれのホストの状態を指すかは、ログの記載だけからは判別できない(本サイトの整理)。ARPANETは当初4拠点が選定されており[SRC-00532]、本件の後、1969年末までにカリフォルニア大学サンタバーバラ校とユタ大学が加わって4台のホストコンピュータの接続が完成した(その後の展開は「歴史的意義」欄で扱う)[SRC-00533]。

関連人物

歴史的意義

Kleinrock自身は、クラッシュで途切れた「lo」の2文字を「インターネット上の最初のメッセージ」("the first message on the Internet")と位置づけ、「lo and behold(ご覧あれ)」の語呂にかけて紹介している[SRC-00531]。日本大百科全書は、ARPANETそのものを「世界初のパケット通信網」と位置づけ、この技術が後にインターネットの礎になったと記す[SRC-00534]。もっとも、これらはいずれも各出典による位置づけ・評価であり、本記事はこれを出典の帰属として紹介するにとどめる。UCLA・SRIの2拠点間で始まった接続は、1969年末までにカリフォルニア大学サンタバーバラ校・ユタ大学を加えた4拠点の接続へと拡張された[SRC-00533]。ブリタニカ国際大百科事典は、1985年に国立科学財団(NSF)のNSFNETがARPANETを吸収し、のちのインターネットの基軸となったと記す[SRC-00534]。

現代の視点

ブリタニカ国際大百科事典は、1983年、今日も使われている通信プロトコルTCP/IPによる接続が採用された時点で軍関係のネットワークが切り離され、ARPANETの名前で学術研究目的のコンピュータ・ネットワークとなったと記す[SRC-00534]。UCLAからSRIへの本件通信の試みから半世紀余りを経て、ネットワークを介した通信は日常のあらゆる場面に浸透している。その出発点にあたる当夜の作業が、「Talked to SRI Host to Host」という素っ気ない一行と署名「CSK」として、手書きの業務日誌の写真の形で今日まで確認できる点は、記録保存の観点からも注目される(本サイトの整理)[SRC-00531]。

出典一覧

  1. [SRC-00531] The Day the Infant Internet Uttered its First Words(Leonard Kleinrock's Home Page — History)/Leonard Kleinrock(UCLA distinguished professor。ARPANETネットワーク測定センターを率い、本件当時Charley Klineの指導教員だった当事者本人)(ランクS)
  2. [SRC-00532] Internet History: 1960s(Computer History Museum)/Computer History Museum(ランクA)
  3. [SRC-00533] Brief History of the Internet(Internet Society)/Internet Society(著者: Barry M. Leiner, Vinton G. Cerf, David D. Clark, Robert E. Kahn, Leonard Kleinrock, Daniel C. Lynch, Jon Postel, Larry G. Roberts, Stephen Wolff)(ランクA)
  4. [SRC-00534] ARPANET(コトバンク)/コトバンク(朝日新聞社・VOYAGE MARKETING運営。収載各事典の版元は本文中に記載)(ランクB)(複数の資料を収載)

本文中の [SRC-nnnnn] はこの一覧の番号を指します。各出典の所在・参照日・信頼度の判定は検証記録で確認できます。

訂正履歴

日付事実主張への変更
12026-09-04
22026-09-04あり

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